ブログって知ってる?
「ブログって知ってる?」
由美子は目の前でクルクルとコーヒをかき混ぜながら唐突にしゃべりだした。
「あれって何が楽しいのかしらね。自分の身の回りで起こったことを全世界に発信して恥ずかしくないのかしら。」
「なんだろうね。僕もブログは書いたことがないからよくわからないや。」
「ちょっと待ってね」と雅史は下を向いて口元に手を当てた。
「人間には三大欲求があるって言われてるじゃない。」
「食欲、性欲、睡眠欲だっけ?」
「そうそう。でも僕は思うんだよ。現代の人間は三大欲求より承認欲の方が強いんじゃないかってね。」
雅史はずいっと前に身を乗り出しながら続けた。
「現代の日本では三大欲求はお金で買える。けどお金を払っても人から自分が肯定されることってないだろ?自分の主張をブログに書いてアクセスがあれば自分の文章を少なくとも誰かが読んでくれたってことじゃない。世界に自分がいるってことを認められた気分になるんじゃないかな。」
「そうかな。デートでお金を払ってくれれば大抵の女性はおごってくれた男性を肯定すると思うけどな。」
「うーん」と雅史は体を引いてまた下をむいて考えだす。
「しょうがないわね。今日は特別にコーヒー一杯であなたのことを承認してあげる。」
口元に笑みを浮かべながら由美子は言った。
「なんだよそれ」
「いいじゃない。全く知らない他人から承認されるよりも目の前のたった一人から承認されたほうが嬉しいものよ。しかもたったのコーヒー一杯。なんとお得なんでしょう」
コーヒーをクルクルとかき混ぜながら楽しそうに由美子は言った。