もうそうたん

小説家を目指すメンヘラ女子の3人称の文章を練習場所。1記事を30分以内で書くという決め事でやっている。

雨の音

正雄が会社を出るとシトシトと雨が降っていた。

正雄は雨の音が小さい頃から好きだった。あのシトシトという音を聞いていると自分のために世界が悲しんでくれる気がするからだ。正雄の目の前を傘をさした人々が無表情に過ぎ去って行く。あまりの無表情さに自分という存在が希薄になり誰にも見えていないのではないかと不安さえ覚えてしまう。正雄はプッシュ式の傘を取り出しボタンを押して傘を開いた。バンっと大きな音で傘が自己主張をするが道行く人は正雄のことなど気にもとめず歩いていく。

僕がこの場で叫んでもこの人達は無関心なんだろうなと、取り留めもないことを考えながら正雄も無表情の人の流れに混じっていく。無表情の列を歩いている時も相変わらず雨はシトシトと降り続けている。シトシトシトシト。正雄はこの音だけが自分という存在を肯定してくれている気がした。