もうそうたん

小説家を目指すメンヘラ女子の3人称の文章を練習場所。1記事を30分以内で書くという決め事でやっている。

河川敷を散歩する二人

穏やかな春の日差しが気持ちいい午後。隆と光子は散歩をしていた。晴れた日は河川敷を散歩するのが習慣になっている二人はいつも通り川の隣の道を歩いた。二人の前で犬の散歩をしている老人がいる。老人はゆっくりとしたスピードで歩いていて、そのスピードに合わせて犬も並んで歩いている。前に飼っていた犬は私のことを引っ張ってでも走ろうとしていたのに同じ犬でも全然違うんだなと光子は思った。

「あの犬ってすごくゆっくり歩いてるよね。」
「ん?何の話?」
「いや。前に犬を散歩してる老人がいるじゃない。その隣を歩いている犬のことよ」

隆はちょっと考えこむとゆっくりとしゃべりだした。

「河川敷と犬を散歩してる人ってマッチするよね。天気が良い日に犬を散歩しながら歩いている老人。なんて穏やかな風景なんだろうね。」
「そうだね。なんかほのぼのするよね。」
「そういえば、人間が物を見る時ってどういうふうにやってるか知ってる?人間が物を見るっていうのはね。光を見てるんだ。」

「例えば・・・」といって隆は川に石を投げた。石が落ちた場所ではぼちゃんという音とともに波紋が広がる。

「今。僕が石を投げて川に落ちて波紋ができただろ?これは一連の動きなんだけど、全て物体に光が反射してできた光を脳が反応して見えた!ってわかるわけ。つまりだよ。実際起こっていることよりも光の速度分だけ遅い画像を僕たちは見てることになるんだよね。」
「なんか難しい話だね。私わからなくなってきちゃった」
「もうちょっとだから話を聞いてよ。ここでちょっと考えをずらして【もし光の速度がすごく遅い世界】っていうものを考えてみたとするでしょ?そうすると、物が動いてそれに光が反射して僕達の目に届く時間がすごく遅くなるってことになるんだよね。それだけ間が伸びるってこと。」

そう言うと同時に隆は右手を光子の顔の前に動かし視界を手で遮った。光子はうっとおしそうにそれをはねのける。

「ね。いま光子は僕の手が邪魔だからどかしたわけ。それは僕が手を移動させたのとほぼ狂いは無い。これが光の速度がすごく遅かったとすると、手で遮ったと光子がわかるのが1時間後とかになるかもしれないわけ。そうなると光子は僕の手を払おうとしても既に僕の手はそこにはない可能性があるんだよ。1時間も光子の前に僕は手を上げておきたくないからね。」
「だからなに?何が言いたいの・・・?」
「まぁ、要約すると僕にはその老人も犬も見えない。もしかしたら光子に届いてる光がそこだけ屈折して遅く届いたんだったら光子にだけ見えるってこともありえるのかと思ったけど考え過ぎなのかな。」

そう言われて光子は前を見ると、確かに歩いていたはずの老人も犬もいない。お化けって案外そういうもんなのかもねと隆は続けているがお化けは夜だし今は昼だしあの老人は前を歩いていただけだし何を言っているのやらと呆れるばかりの光子であった。