もうそうたん

小説家を目指すメンヘラ女子の3人称の文章を練習場所。1記事を30分以内で書くという決め事でやっている。

逆チョコで告白

「あの、すいません・・・。」

不意に声をかけられ、思わず振り向いて光子は思わず舌打ちをしそうになった。


振り返った先には気の弱そうな男性がしたを向きながらもじもじしていた。

「あの、今日ってバレンタインデーですよね?」
「そうですね。それがどうかしたの?」
「僕、好きな人に逆チョコをあげて告白したいと思ってるんです。」
「そう、すればいいじゃない。」
「でも、僕チョコのこととか全然知らなくて。。。できればあなたの好みのチョコレートを選んでもらってそれをプレゼントしたら喜ぶんじゃないかと思ってるんです。」
「え?何を言ってるの?なんで私があなたのプロポーズのためにチョコを選ばないといけないの?」

そう言い放つと光子は止めていた足を再度動かし足早に立ち去ろうとする。しかし、気の弱そうな男は外見とは裏腹に腕にすがって必死に訴えてくる。

「そんなこと言わないで下さい。あなたにしか頼めないんです」
「なんで私なのよ。そこら辺に歩いている人間はいくらでもいるじゃない。私じゃなくて違う人に頼みなさいよ。」
「そんなこと言われても・・・。」

気の弱そうな男は下を向いて今にも泣きそうな顔をしている。捨てられた子犬を思わせる体の震え。思わず母性本能をくすぐられた光子はため息を付くことしかできなかった。

「お願いします。今回だけでいいんです・・・。」

消え入りそうな声で気の弱そうな男は続ける。フーっと息を吹きかけえるだけで命の灯火が消えてしまいそうな生命力のなさ。最初に話しかけてきた勇気はどこに言ったと光子は突っ込みたい気持ちをぐっと堪えた。

「わかったわよ・・・。私が好きなチョコでいいのね?」
「えっ!本当にいいんですか???」
「ただし、選ぶだけだからね。お金も出さないし何もしない。これがいいって選ぶだけ。わかった?」
「もちろん。お金を払ってもらおうなんて微塵も思っていませんよ!」

面倒なことに巻き込まれたと思いながらも行きつけのチョコレート屋さんへと足を運ぶ光子。道すがら話をしていると光子を選んだ理由はそこのチョコレート屋さんへと足を運ぶ姿をよく見ていて、この人が選ぶチョコなら間違いがなさそうだと前から思っていたと気の弱そうな男は話していた。女性は男性が頑張って選んでくれたチョコのほうが嬉しいに決まっていて、女性ごころが全く分かっていないこの振られるであろう男のために逆チョコを選ぶなんてなんて不毛な時間だろうと光子はOKを出したことに早速後悔をした。

約束を下からにはさっさと終わらそうと、チョコレート屋さんにつくと同時に品定めを始め、予算内で良さそうなチョコレートを選んでいく。選び終わると気の弱そうな男性が会計をしている最中に「じゃ、これで」と店を出て行くのであった。

「ちょっと待ってください!」

後ろから気の弱そうな男の声が聞こえてくるが無視を決め込んで足を止めずに歩き続ける光子。そのまま無視して歩き続けていると肩を掴まれて後ろを振り向かされた。

「待ってください。」
「なによ。私の役目は終わったでしょ?」
「違うんです。ここからが本番なんです。逆チョコで告白したいと思っていたのはあなたなんです!」
「・・・」
「ずっとこの店に通っているのを見ていました。チョコレートが好きだと分かっていたのでこれ以外に告白する方法が見つかりませんでした。不躾だとは分かっています。電話番号を書いた紙を入れているのでよければそこに連絡を下さい!」

言うと同時に駆け出す気弱な男。「ちょっと・・・」と言って追いかけようとするが突然のことでうまく体が動かず呆然と立ち尽くしてしまう光子。「もぅ」と言いながら気弱な男の顔を思い出してみる。あの泣きそうな顔が子犬っぽくてすごく可愛らしい男の子だったと光子は思う。ちょっとだけ笑うと光子は家路へと歩き出すのだった。


っということが起こるに決まっている。こんなめんどくさいことが起こるのを考えると舌打ちしたくなる気持ちも少しは分かってくれるであろう。実際ははげかかったおっちゃんから道を聞かれてちょっと道を教えただけですんだのでありがたい限りだった。そう、決して悲しくはない。ありがたい限りである。