もうそうたん

小説家を目指すメンヘラ女子の3人称の文章を練習場所。1記事を30分以内で書くという決め事でやっている。

ある募金活動に対するいちゃもん

「恵まれない子どもたちに愛の手をお願いしまーす」

「お願いしまーす」と周りにいる同級生も続ける。週末は街頭に立ちボランティアで募金を募る。武が中学に入ってから1年半続けている習慣だった。始めたきっかけはなんとなく暇だからというすごく不順なものだった。週末に暇を持て余していた時に学校からボランティア活動のビラが届いたのである。どうせ暇だしという軽いノリで始めた募金活動だったがやってみると楽しかった。綺麗なお姉さんが募金をすると同時に「偉いわね」と言われると少し得意げな気分になったし、小さい子供がお母さんからお金をもらって走って募金しにきてくれた時に頭をなでてあげるのも好きだった。はじめる前はなぜ街頭に立って大きな声を出して募金を募っているのかさっぱりわからなかったがやりだすとボランティア活動をしている時だけは自分がこの世から必要にされている気がして進んでボランティアをやる人間の気持ちが少しだけわかった気がしていた。

「恵まれない子どもたちに愛の手をお願いしまーす」
「お願いしまーす」

このセリフを言って何回目だろうか。武はさっきから視界の端にいる男が気になってしょうがなかった。ガードレールに腰をかけて腕を組みながらこっちを見ている男。誰かを待っているのだろうと最初は思っていたのだが、時間を気にする様子もない。なにをするでもなく腕を組んでこっちを見ているだけの男がいるのである。ちらちらとそちらを見ていると、武が見ていることに気づいた男がおもむろに立ち上がりこちらへと向かってきた。

「なんでそんなことやってんの?」

男はおもむろに言った。「お願いしまーす」他の子はまだお決まりの言葉を言っているが武は止まってしまう。なぜ?そんなことを言われる筋合いも何もこの男にはないはずなのにわざわざなぜこの男が絡んでくるのか武には全く理解できなかった。

「なんでそんなことやってんの?」

男はもう一度尋ねてくる。いいことをやっているはずなのになぜこの男はこんなに絡んでくるのだろう。武は段々と苛立ってきた。間違いなく自分はいいことをしている。それを邪魔するこの男は悪だ。周りの人間もそれを分かってくれるはずだと予想してちょっと強めに話を始めてみた。

「アフリカでは今も餓死している人間がいるんです。それにもかかわらず日本人は食べれる食料を捨てている。不公平だと思いませんか?それならば捨てるはずの食料を買うお金を募金してもらってアフリカの子供に渡してあげるんです。それだけで餓死する人間が減るかもしれない。」
「ふーん。」
「お兄さんもあんなに長い時間見ていたんだからボランティアに興味があるんじゃないですか?意地張ってないで一緒にやりましょうよ。手伝ってくれなくても少しだけ募金してくれるだけでもいいですよ。」

男は少し黙った。武は自分がこの男をやり込めた感覚に酔いしれていた。悪を倒した自分。いいことをしている自分にちょっかいを出してくる人間を黙らせたこの状態はヒーローが悪を倒したのとおなじ感覚だった。

「そんだけ?」

男は少し時間を開けていった。

「それだけってなんですか。十分な理由でしょ?」
「いや。俺が聞きたいのはなんでそんな大声張り上げて自分はいいことしてますよっていうのをアピールしてるの?って聞いてるわけ。」
「え?」
「募金なんて募金箱置いてけばいいだろ。おかねを集めるだけなら箱があれば募金してくれる人は募金するよ。大声出してアピールする必要ないだろ?お金の額が重要なのであったら群れる必要ないじゃないか。一人ひとりが各箇所に募金の呼びかけをすればもっと効率よくいろんな人に募金のアピールが出来るわけじゃないか。なのにお前らは群れて固まってバカの一つ覚えみたいに「お願いしまーす」っていうだけだ。だからなんか意味があるのか?って思ったわけだよ。」
「・・・」
「更に言うとだな。金額が重要ならこんなところで大声出さずにバイトすればいいだろ。ボランティアバイト。企業に言ってみるよ。企業の好感度アップのために町のゴミ拾いをする学生にバイト代を出して、そのバイト代はすべて寄付される。こっちのほうがよっぽど効率的だろ?お金が必要なら働け。馬鹿みたいに声を出して自己満足であるのを隠してなにをやってんだって思ってしまうんだよ。」
「そんなこと言うならお兄さんがやればいいじゃないか!」
「俺はやらないよ。偽善者じゃないしアフリカの子供が飢えようがなにしようが俺の知ったことではない。お前らは重要なんだろ?だったらもうちょっと効率がいい方法が有るんじゃないのか?とか考えたりしないのかが前から疑問だったんだよ。だからじっと見ていたんだけど、お前らもアフリカの子供っていう下の人間を作ることで満足してるだけの人間なんだろうな。

武はなにもいうことができなかった。「さっき言ったことをやったほうが金は集まると思うよ」とだけ言うとその男は去っていった。