もうそうたん

小説家を目指すメンヘラ女子の3人称の文章を練習場所。1記事を30分以内で書くという決め事でやっている。

オフサイド

目の前で怒鳴っている男がいる。自分がいちゃもんを付けられているというのは頭では分かっているがどこか冷ややかな目で太郎は相手を見つめていた。

「ちょっと聞いてんのかよ。さっきのは明らかにオフサイドではなかっただろ!」

男性はなおも太郎に向かって詰め寄ってくる。そう、男が言う言葉は正しい。太郎は誤審をしたのだ。明らかにオフサイドではなかったのだが勢い余ってフラッグを上げてしまった。あげた瞬間「しまった」と思ったのは確かだ。しかしそんなことは匂わせずにまっすぐとオフサイドフラッグを建てたまま立ち続けた。一回上げてしまったフラッグを降ろすぐらいなら最初から上げなければいい。あげた瞬間に間違っていたと思ったとしても、上げ続ければいいのだ。最終的なジャッジは主審が笛を吹くか吹かないか。そこにかかってくる。笛が吹かれなければ太郎の誤審はそのまま流れる。笛を吹かれれば主審がそうジャッジしたのだから太郎が間違ったと思ってしまったことが間違っているわけだ。

目の前ではなおも男は文句を言っており、オフサイドトラップに失敗したディフェンダーは「しめしめ」と言わんばかりの表情をしながらも素知らぬ態度でボールを蹴ろうとしている。こういう場合は反論をしてはいけない。太郎は長い審判経験から知っていた。激高しているプレイヤーはどれだけ冷静に対応しても自分が一番正しいと思っているのだ。この場合確かに相手のほうが正しいのだがそんなことは関係ない。相手にしたら負けなのだ。何を言っても火に油を注ぐだけなのであれば文句を言ってはいけない。